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バーテンダー「………、実際、自分の部屋には、本や雑誌の類は一冊も置いていないんですよ」 客A「え〜? 俺なんか古本屋の中に住んでいるようだよ」 客B「…………」 客A「でさ、俺が明日も生きようっていう意欲っていうかな、まだ死にたくないっていう理由の一つとして、その部屋にある以前に買ったけどまだ読んでいない本、聞いていないCD、開封していないDVDの山を全部消化してからじゃないと死ぬに死ねないってわけだよ」 客B「…………」 客A「かといって、少しずつでも減っているのかって言うと、消化するスピードより速い速度で購入している。も、これはどうころんでも増殖している」 客B「…………」 客A「でも、それでいいんだっていう説もあるんだ。本はそのタイトルだけでも価値があるんだって。なんか思いついたときに、手をのばせばその本をすぐに開けるでしょ。だから、中身を読まなくても置いておくだけで、背表紙の本の題名だけで十分な価値があるんだって」 客B「…………」 ここで、客Cが割り込み 客C「………、いやぁ〜、大変失礼ながら、お隣で聞こえてくるあなた様のお話が面白くて面白くて、ついつい聞き入ってしまいました。実にあなたの話は面白い!! さっきの反原発の話とか、国際金融マフィアの話とか、人間の脳とインターネットの仕組みの話とか、カクテルのシェイカーとフィルム現像の関係とか、………。いやぁ〜、あなたはすごく頭がいい!!」 客A「別にいくら褒めたって何にもでませんよ。美人を口説くときの有名なテクニックをご存知ないですか?」 客B「…………」 客C「????」 客A「美人に向かって『あんたよく見るとブスだね。』って言うんだそうです。これはブスには通用しません。殴られます」 客B「…………」 客C「????」 客A「つまりトークにはサプライズが必要なんです。落語でいうと枕。漫才でいうとツカミ。美人は小さい頃から『美人だね』って何千回も言われているんで、またかよ。ってなっちゃう。もう、そんなの当然でしょ。くらいに思っている。そこで、あらためて私の左にいるこの女性を見てください。よく見ると結構、美人でしょ?」 客B「バシッ!!(打撃音)」 客A「イタタタ………。だから、いくら私に、話上手だとか、頭が良さそうだとか、もしやお医者さんかなんかですか、なんて言ってもほとんど驚きません。よって、同じ褒め称えるのであれば、もっと、違う観点から私を褒め称えてください。たとえば、そのネクタイなかなか粋な柄ですね。とか」 客B「…………」 客C「そのネクタイなかなか粋な柄ですね」 客A「そ、そんな、私の例をそのままリピートしてもダメです。サプライズがないのです。それでは、何もでません。もともとでませんけど」 客B「…………」 客C「その背広、なかなか粋な柄ですね」 客A「だめだめだめだめ。そんな小手先の変更ではだめです。その場合、こうしたらいかがでしょう。『その背広、なかなか粋な柄ですね。どこのドンキホーテで買ったんですか?』ぐらいは、ヒネってもらわないと……」 客B「…………」 客C「なるほど」 客A「でも、もし私が本当に面白いなら、この娯楽に飢えた時代。もうそろそろテレビやラジオから出演のオファーがあってもよい頃です。でもまだ一件も連絡がありません。つまり、それほどは面白くはないんです」 客B「…………」 客C「なるほど」 客A「あ、ここは感心するのではなく、否定してください」 客C「そんなことないですよ。十分面白いですよ。少なくとも私にとっては」 客A「そうそう。そもそも笑いの本質とは、………」 (以下閉店まで継続) |
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