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カツカレーの注文のしかたをご存知だろうか。
そう、店員に向かってたった一言「カツカレー!」と、いうだけでよい。「本来そうあるべき普通のカツカレー」であれば、疑問の余地はなかろう。
あえて断るまでもないが、過去30年以上、私はカツカレーを注文するときは、そのように注文してきた。(「福神漬け抜きで」と補足することもあるが)
都内某所の、あるカレー専門店では、その「本来そうあるべき普通のカツカレー」を食べる場合、あえて以下のようにかなり念入りな注文をしなければならない。(もし、この店に初めて入った客が、以下のようにいちいちカツの切り方を店員に指示する神経質そうな男を見たら、完全に"壊れている"と思うだろう。)
- カツは俎板の長い辺と平行に置き、(こう言わないと、その店では斜めに置く)
- 包丁は俎板に対して90度の角度で入れ、垂直に包丁をおろして切り、(こう言わないと、その店では俎板に対して30度の角度で斜に包丁を入れる)
- ライスの上に直接、カツをのせ、その上にカレールーをかけてください。(こう言わないと、その店では一番上にカツがのせられてしまう)
- あと、ごはんは普通盛りで結構です。(こう言わないと、その店では男性客はデフォルトでごはん大盛りにされてしまう)
- それと、セットのホットコーヒーは、同時に持ってきてください。(こう言わないと、その店ではカレーライスを食べ終わっても、しばらくの間出てこない。最悪、忘れられる。)
すごく美味いとか、値段が安いとかなどの特筆すべき魅力があるならともかく、その店は"カツを斜めに切るという一点を除けば"味も価格も中程度のごく普通のカレー専門店である。無理にそんな店に行く必要はないのだが、背に腹はカレーライス。近くにカレーライスを食べられる店がないのだ。(だから、いつ行ってもその店は満員である。)
カツの切り方だけが尋常でないのだ。その店で「本来そうあるべき普通のカツカレー」を食べたければ、細心の注意を払って、カツが斜めに切られないように注文しなければならないのだ。そのときの想像を絶する苦労は実は数年前、『念願のカツカレー』で、すでに書いている。
ここでは再度あらためて、一方的、かつ、具体的にその店に苦言を呈してみたい。
カツを斜めに切ってはいけない理由
- 普通に切れば20mm程度のカツの断片の横幅が最大45mm程になり食べにくい
- 斜めに切った結果、噛んだ時に衣が上面か下面のどちらかにしかなく、一瞬、身体が宙に浮いたような不安感を感じる
- まるでハムカツのように薄く感じ、衣を噛んだときのザクザクとした歯応えがない
- カツの切断面が大きくなり、その断面を見るのはいやだ
- 普通に切るより、少しでも大きく見せようという魂胆が見え見えだ(実際、普通の店のカツより少し小ぶりのカツだ)
など(カツがカレールーの上にのせられるという問題を除いても)数多くの問題点がある。
私以外の客は極めて従順なのか、カツカレーに対してこだわりがないのか、食べられさえすればどうでもよいのか、他の店で「本来そうあるべき普通のカツカレー」を食べたことがないのか、黙々と「斜めにスライスされたカツ」によるカツカレーを食べている。
しかし、一見、黙々と大人しく食べているように見えても、私が、例によって、細心の注意を払ってカツカレーを注文している様子には、しっかりと聞き耳を立てているようである。
いまでは私は、ほぼ望み通りの(何年も斜めにカツを切ってきた料理人の癖がまだ残っていて、依然、80度くらいに斜めに切られているのだが……)カツカレーを食べることができる。そして、自分よりあとから普通にカツカレーを注文した客が「思いっきり斜めにスライスされたカツ」によるカツカレーを出されるのを見るとき、「やった! 勝った! 俺はこの店に勝った! 勝ったんだっ!」という満足感に満たされ、これまでの苦労が報われたと思うのだ。
ところで、この状況とは正反対に、普通のカレー店で神経質そうな男が「斜めにスライスされたカツ」によるカツカレーを要求するかなりネチッコイ注文をしている場面を想像してみた。もしそんな男がいたら、私なら絶対に"壊れている"と思うのだが………。
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