これも実話である。
もう、その老朽化したビルは取り壊されたので、
その部屋はすでに存在しない。
そのビルは、ある団体が全フロアに入居していたが、
なぜか最上階だけは、どの部屋も空き部屋になっていた。
半年の間、その最上階の一室を作業部屋として指定され、
俺は一人で資料を作成する仕事をしていた。
毎日、その日に出来上がった分を持って2階へ行き、担当者の机に置いて帰る。
もともと人嫌いなので、
そういう個室での孤独な作業には何の抵抗もなかった。
むしろ、周囲に気遣うことなく、
作業だけに集中できる恵まれた環境だった。
やがて、充実した任務は完了の日を迎えた。
送別会ということで、スタッフの方々が
ランチをご馳走してくれることになった。
「○○さん、これまで"あんな部屋"で
一人離れて仕事をしてもらって、すいませんでした」
「いえいえ、おかげさまで集中して仕事ができましたよ。
とても静かで眺めもよく、最高の環境でした」
食事も終わり、ゆっくりとコーヒーを味わう。
至福の時間である。
「ところで、何か変わったこととかはありませんでしたか?」
「変わったことって、例えばどんなことですか?」
「何もなかったのなら、別にいいんですよ………。別にね」
「そういえば、こちらに来たばかりの頃、
同じような質問を受けた記憶がありますよ。
そして、その人は何が心配なのか、
ときどき私の様子を見に来ていましたね。
仕事をサボっていないか見に来てたのかなぁ。はははは………」
「ああ、やっぱり………」
「え? 『やっぱり』って、何かあるんですか? あの部屋。
別に雨漏りとかはしませんでしたけど?」
「いやぁ、最後の日だから言いますけどね、実はあの部屋出るらしいんですよ」
「出るって、幽霊とか?」
「ええ、あなたの前任の人は契約途中で急にやめてしまって………」
「で、私が呼ばれたと………」
そういうことは
最初に言ってよぉ〜〜〜〜〜っ!
|