≠″ャ 」レ 文 字├″ッ ├ ]厶 |
「おい!いま俺の格好のことで何か言ったろ!」 地下鉄の車内、突然の罵声に目が覚めた。目の前で若い男が怒鳴っている。怒りの対象は私ではなく、近くに座っているオッサンだった。 「言ってません。何も言ってません」 「思っていることをいちいち口にだすんじゃねえ!」 「言ってません。何も言ってません」 「うそつけ!こっちはちゃんと聞こえてたんだぞ!」 「言ってません。何も言ってません」 同じ返事を繰り返して、切り抜けようとするオッサン。ラチがあかないので、しぶしぶと自分の席に戻る若者。 私の左隣にはケータイのメールを熱心に見ている女性がいて、その左に問題のオッサンが座っていた。どうやら、女はオッサンの知り会いのようだった。 オッサンは、よく通るはっきりとした声で語りかけているのだが、女性はとくにあいづちを打つでもなく、ケータイを見て無視している。 赤の他人同士であれば、さっさとその場を離れてしかるべき状況だろうに、いたって平然としているところを見ると夫婦かもしれない。オッサンが相手の反応に関係なくしゃべり続ける癖に慣れているのだろう。 一方、例の若者は、怒りの感情をしずめようとするかのようにじっと一点をにらみながら音楽を聞いている。 視線を察知されないよう私は再び眠るフリをして帽子を目深にかぶった。「こんどはそこのおまえ!何、勝手にファッションチェックしてるんだ!」と言われたら、たいへんなので慎重に観察した。 問題の服装は今年流行のボタニカル柄のパンツ。派手ではあるが、トップスとの組み合わせは悪くない。むしろドン小西なら★を4個付けるレベル。 その若者がキレたオッサンの発言内容は容易に想像できた。おそらくこんなつぶやきだったのではないだろうか。「男のクセに花柄のズボンなんかはいちゃって(笑)」 次の駅で停車すると真っ赤なドレスを着た女性が乗車してきた。きっとパーティーか何かに行く途中だろう。なんと例のオッサンは即座に反応した。 「真っ赤なワンピース着てる人ってすごい目立つよね〜、……」 さっきも絶対に言ってたと思う。 |